ベトナムから特定技能を受け入れる企業の費用負担|労働者提供契約と「給与1か月分」のルール
ベトナムから新たに特定技能外国人を受け入れるとき、受入企業はベトナムの認定送出機関と「労働者提供契約」を結びます。募集する業種や人数、労働条件、そして受入企業がどの費用をいくら負担するかを定める契約です。
このうち費用の部分が、日本側からは見えにくいところです。送出機関に支払う派遣料には下限があり、労働者1人あたり最低1か月分の基本給と決められています。ほかに訓練費と航空券も受入企業の負担です。
なお、ここで扱うのはベトナムから新たに呼び寄せる場合の費用です。すでに日本に在留している方を特定技能に変更する場合は送出機関を通さないため、この費用は発生しません。
この記事では、受入企業が負担する費用の中身と、なぜそういう決まりになっているのか、そして契約前に確認しておきたいことを見ていきます。
この記事でわかること
- 受入企業が送出機関に支払う3つの費用(派遣料・訓練費・航空券)と、その根拠
- 「給与1か月分」が何を指すのか。どの数字を基準に計算するのか
- なぜ受入企業が負担する設計なのか。借金と失踪という背景から見た制度の狙い
- 訓練が要らない人の訓練費はどう扱われるか
- 「認定申請か変更申請か」と「技能実習修了ルートか試験合格ルートか」の切り分け
- 契約前に確認しておくこと(送出機関の認定状況・費用の内訳)
受入企業が負担する3つの費用
ベトナムの通達(21/2021)の付録IIに、日本市場向けの決まりが一覧になっています。特定技能について受入企業が負担するとされているのは、次の3つです。

① 派遣料:労働者1人あたり、基本給の1か月分以上
受入企業は送出機関に対し、労働者1人・1契約あたり基本給の1か月分以上を派遣料として支払います。支払いは送出機関の口座への振込と指定されています。
基準になるのは基本給です。手取り額でも総支給額でもありません。
そして決められているのは下限だけで、上限はありません。法令上「ここまで」という頭打ちがないので、いくらで提示されるかは送出機関によって変わります。実務では給与の1〜3か月分あたりで提示されることが多いようですが、これは相場であって法令の上限ではありません。1か月分ちょうどで出てくるとは限らない、という前提で見積もりを比べてください。
なお「派遣料」というのは、ベトナムが自国民を海外へ送り出すという意味での派遣です。日本の労働者派遣とは関係ありません。
② 往路の航空券
ベトナムから就労場所までの航空券は、受入企業が負担します。
③ 訓練費:1人あたり10万円以上
語学と技能の訓練にかかる費用は、受入企業が全額を負担します。その最低額が1人あたり10万円です。送出機関が本人から訓練費を取ることは禁じられています。
訓練が要らない人についても、条文には定めがあります。 すでに日本側の要件を満たす語学力・技能を身につけている場合は、送出機関が同じ業種・語学で実施している訓練費用と同水準の額を受入企業が支払う、と書かれています。技能実習を良好に修了して一度帰国し、改めて認定申請で入ってくる方などが該当します。
ただし、この場合の金額をどう算定するのか、どこに払うのかまでは条文から読み切れません。訓練を実施する場合の支払先は送出機関の口座と指定されていますが、実施しない場合の扱いは書き分けられていないためです。契約書のドラフトが出てきた段階で、この人に訓練費が計上されているのか、いくらで、どこに払うのかを確認するのが確実です。
この契約とは別に、ベトナム政府が承認する推薦者表という書類も必要になります。そちらはベトナム人の特定技能で必要な「推薦者表」とはで様式と記入例まで解説しています。
なぜ受入企業が負担する設計なのか
ベトナム人材について、来日前に多額の借金を抱えているというイメージを持たれている方は多いと思います。数字にも表れています。
入管庁が2022年7月に公表した「技能実習生の支払い費用に関する実態調査」の数字です。技能実習生2,184名から直接聴取したもので、母国の送出機関に支払った費用の平均額は、ベトナムが65万6,014円。調査対象6か国のなかで最も高い金額でした。全体の平均は52万1,065円です。
借金についても聞いています。来日前に母国で借金をしている技能実習生は全体の54.7%、ベトナムでは80.0%。借金総額の平均はベトナムが67万4,480円でした。
そして借金をしている人のうち68.8%が「来日中に返し始める」と答えています。返し終えるまで辞められないと思ってしまうため、低い賃金や厳しい条件でも我慢する。限界が来たときに失踪という形で表面化する。この調査自体、失踪の背景に不当な費用徴収があるのではないかという問題意識から行われたものです。
ベトナムは2020年に海外派遣の法律を全面的に改め、2022年から施行しています。改正の柱のひとつが、労働者本人の負担を抑えることでした。
仕組みはこうです。送出機関が受け取る手数料は、受入企業と労働者本人の両方から集める形になっています。そのうえで、それぞれに別のルールがかかります。
受入企業の1か月分は、減らせません。 条文が「最低1か月分」と定めている以上、これを下回る組み方はできません。「本人から取るから会社は出さない」も、「会社と本人で0.5か月分ずつ」も、会社の負担が1か月分を下回るため成り立たない、という理屈です。
本人側は逆に、上限だけが決まっています。 下限はないので、ゼロでも構いません。そしてその上限が、ルートによって分かれます。
- 技能実習2号・3号を良好に修了して特定技能に移る人:上限はゼロ。本人からは1円も取れません
- 試験に合格して特定技能になる人:上限は契約期間12か月ごとに賃金1か月分で、36か月以上の契約なら最大3か月分までです
会社側は下限だけ、本人側は上限だけ。「合計で最大◯か月まで」という枠は置かれていません。
もうひとつ効いてくる決まりがあります。本人が払う額は、送出機関と本人が合意した額から、受入企業が払った分を引いた残りになる、というものです。会社が多めに払えば、その分だけ本人の負担が減る関係です。

混同しやすい2つの分かれ道
ここまでに分かれ道が2つ出てきました。よく混ざるので、切り分けておきます。
- 受入企業が払うかどうか → 送出機関を通すかどうかで決まります。つまり認定申請か変更申請かです
- 本人から取れるかどうか → 技能実習修了ルートか、試験合格ルートかで決まります
この2つは別の軸なので、掛け合わせになります。
たとえば技能実習を良好に修了した方でも、日本にいるまま変更申請するなら送出機関を通さないため、受入企業の負担はゼロです。そもそも労働者提供契約を結びません。一方、一度帰国してベトナムから呼び寄せるなら認定申請になるので、最低1か月分の派遣料が発生します。同じ人でも、どちらの入り方をするかで変わります。
なお後者の場合でも、本人からは1円も取れません。技能実習2号・3号を良好に修了した方だからです。会社の負担だけで完結します。

送出機関を紹介する仲介業者への手数料も、日本市場は全業種でゼロです。
本人から取れる分がここまで絞られれば、送出機関は受入企業側から回収するしかありません。派遣料に下限が置かれているのは、そのためです。単なるコスト転嫁ではなく、来日前に借金を背負わせないための設計だと読むと、話のつながりが見えてきます。
本人の負担は、送出国によって大きく違う
同じ調査に、国ごとの比較が載っています。
送出機関に何らかの費用を支払った人の割合は、ベトナムが97.8%だったのに対し、フィリピンは16.4%でした。平均支払額もベトナムの65万6,014円に対し、フィリピンは9万4,191円です。
同じ日本の制度を使っていても、送り出す側の国が違えば本人の負担はここまで変わる、ということです。ベトナムが本人の負担を抑える方向へ動いてきた背景を考えるうえでは、押さえておきたい数字だと思います。
日本側のルールとも向きは同じ
上陸基準省令は、申請人が活動の準備に関して外国の機関に費用を払っている場合、その額と内訳を十分に理解して合意していることを求めています。特定技能運用要領はこの趣旨を、特定技能外国人が不当に高額な費用を払い、多額の借金を抱えて来日することがないよう設けられたものだと説明しています。
あわせて、保証金の徴収や違約金契約があることを認識したうえで受け入れた場合は欠格事由に当たり、5年間受入れができなくなると注意を促しています。
ベトナム側が「本人から取らせない」と決め、日本側が「本人にいくら請求されたかを確認する」ことを求めている。受入企業が見るべきなのは自社の支払額だけではない、ということになります。送出機関が本人からいくら取っているかも、契約段階で把握しておく対象です。
実務でつまずきやすいところ
契約する相手が認定を受けているか、先に確かめる
ベトナムの制度では、認定を受けていない送出機関を通して特定技能人材を送り出すことができません。契約してから相手に認定がないと分かると、そこまでの話がすべて止まります。
確認先は入管庁のホームページです。ベトナム政府が認定した送出機関の一覧に加えて、認定を喪失した機関や一時停止中の機関の一覧も別に公開されています。契約前に両方を見ておくのが確実です。取引の話が進んでいる最中に認定が止まることもあるため、契約書に署名する直前にもう一度見ておくと安心です。
もうひとつ、送出機関が求職者の人選まで行うと職業安定法上のあっせんに当たります。その場合は日本国内の職業紹介事業者としての許可が必要になるため、間に入る事業者の資格も併せて確認しておく必要があります。
費用は総額ではなく内訳で見る
送出機関から出てくる見積もりは総額でまとまっていることがあります。ただ、ここまで見てきたとおり派遣料・訓練費・往路の航空券は性質が違う費用です。総額だけで比べると、何が含まれていて何が別途なのかが分かりません。
契約書のドラフトが来た段階で、次の4点を条項で確認しておくと後の食い違いが減ります。
- 派遣料がいくらで、基本給のどの数字を基準にしているか
- 訓練費が含まれているか、別途か
- 航空券が往路のみか、帰国分まで含むか
- 支払時期と支払先(条文上は送出機関の口座への振込と指定されています)
条項の書きぶり次第で、後から追加請求が出たり、逆にこちらが二重に払ってしまったりします。当事務所でも特定技能ビザの申請サポート(受入企業向け)を行っており、送出機関から提示された契約条項と日本側の申請書類の整合を見る部分からご相談いただけます。
本人がいくら払っているかも確認する
日本側の上陸基準省令は、申請人が外国の機関に費用を払っている場合、その額と内訳を本人が十分に理解して合意していることを求めています。受入企業としては、自社の支払額だけでなく、送出機関が本人からいくら取っているかも把握しておく対象になります。
事前ガイダンスで、給与からの控除項目まで含めて本人と確認しておくと、認識のズレが後から表に出にくくなります。
よくある誤解・注意点
「MOCで1〜3か月分」という説明は、根拠がずれている
日本語の解説では「二国間の協力覚書(MOC)により、基本給の1か月分以上3か月分以下と定められている」と書かれることがあります。ただ、この2つはまったく別の規定です。
1か月分以上は、通達21/2021の付録IIが定めた受入企業から送出機関へ支払う派遣料の下限。3か月分までは、法律69/2020が定めた労働者本人から送出機関へ支払うサービス料の上限です。払う主体が逆の数字を足し合わせた形になっています。MOC本文にこの金額は出てきません。
育成就労では、本人負担の上限が別途検討されている
2027年に始まる育成就労制度について、在ベトナム日本国大使館が2025年7月のセミナーで、労働者本人が送出機関に支払う手数料を月給2か月分以内に制限する案を示しています。まだ正式に決まったものではありませんが、特定技能とは別の枠組みで水準が置かれる可能性があります。
よく引用される2020年のDOLAB通知は廃止済み
日本語の解説記事の多くは、いまも DOLAB 通知606号(2020年3月27日付)を根拠に「1か月分」を説明しています。この通知は法律69/2020の施行に伴って廃止されており、JITCO も2023年3月に告知しています。内容は新しい法律にほぼ引き継がれていますが、訓練費10万円という水準は新法になってから加わった部分です。
ベトナム側の法令は改正が続いている
2025年の省庁再編で、ベトナムの労働・傷病兵・社会問題省は内務省に統合されました。入管庁のホームページでも DOLAB は「内務省海外労働管理局」と表記が変わっています。2026年に入ってからも施行細則の政令と通達がそれぞれ改正されており、契約時点でどの版の付録が適用されるのかは、送出機関から出てくる契約書の条項で確認しておくのが確実です。
日本にいる方を採用する場合は、この費用は出てこない
冒頭でも触れましたが、労働者提供契約は「ベトナムから新たに呼び寄せる場合」の手続です。すでに日本に在留している方を変更申請で特定技能にする場合は、送出機関を通さないため、派遣料も訓練費も発生しません。
特定技能の制度全体を先に押さえておきたい場合は、特定技能ビザとは?1号・2号の違い、対象19分野、取得要件もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 本人と会社で費用を分担してもいいですか。
受入企業の1か月分を減らす方向での分担はできません。この1か月分は最低額として定められているためです。本人から取ったぶん会社の負担を軽くする、という組み方も認められません。
会社が1か月分を出したうえで、送出機関と本人が合意した額に足りない部分があれば、そこを本人が負担する、という順序になります。技能実習2号・3号を良好に修了して移る人については、そもそも本人から取れないため、会社の負担だけで完結します。
Q. 会社と本人を合わせた上限はいくらですか。
合計での上限は定められていません。会社側は「1か月分以上」という下限だけが決まっていて頭打ちがなく、本人側は上限だけが決まっていて下限がありません。両方に同じ枠がかかっているわけではないため、合計の上限という考え方自体が置かれていない、という整理になります。
Q. 基本給はどの数字を使いますか。
雇用条件書に記載する基本給が基準になります。手当や残業代を含む総支給額ではありません。金額の解釈で送出機関と認識が分かれることがあるため、契約段階で数字を明示しておくのが安全です。
Q. 技能実習を修了して一度帰国した人を、改めて認定申請で受け入れる場合も費用はかかりますか。
派遣料はかかります。送出機関を通して呼び寄せる以上、労働者提供契約が必要になるためです。
訓練費については、条文に「すでに要件を満たしている人にも同水準の額を支払う」という定めがあるものの、金額の算定方法までは書かれていません。実際にいくら計上されるかは、送出機関から出てくる見積もりで確認することになります。
なおこの場合、送出機関が本人から手数料を取ることはできません。技能実習2号・3号を良好に修了して特定技能に移る人は、本人負担がゼロと定められているためです。
まとめ
- 受入企業が負担するのは3つ。派遣料(労働者1人あたり基本給の1か月分以上)、往路の航空券、訓練費(1人あたり10万円以上)
- 派遣料の1か月分は下限で、法令上の上限はない。実務では1〜3か月分で提示されるが、これは相場であって上限ではない
- 訓練が要らない人についても、同水準の額を受入企業が支払うという定めがある。ただし金額の算定と支払先は条文から読み切れないため、契約書で確認する
- 背景には、来日前の借金が失踪につながるという問題がある。ベトナムは2020年に海外派遣の法律を全面改正し、本人の負担を抑える方向に舵を切った
- 受入企業の1か月分は義務。本人から取るから会社はゼロ、という組み方も、折半もできない
- 会社側は下限だけ、本人側は上限だけが決まっている。合計での上限という枠は置かれていない
- 本人から取れる額は、技能実習2号・3号を良好に修了して移る人はゼロ。試験合格ルートは36か月以上の契約で最大3か月分まで。ただし送出機関と本人の合意額から、会社が払った分を引いた残りが本人の負担になる
- 同じ調査で、送出機関に費用を払った人の割合はベトナム97.8%に対しフィリピン16.4%。送出国によって本人の負担は大きく違う
- 契約前に、相手の送出機関が認定を受けているかを入管庁のホームページで確認する。認定を喪失した機関・一時停止中の機関の一覧も別に公開されている
- 見積もりは総額ではなく内訳で見る。派遣料の基準となる基本給、訓練費と航空券の扱い、支払時期と支払先を条項で確認しておく
- 受入企業が払うかどうかは認定申請か変更申請かで決まり、本人から取れるかどうかは技能実習修了ルートか試験合格ルートかで決まる。別の軸なので掛け合わせになる
- 日本に在留している方を変更申請で採用する場合は、この費用は発生しない。ただし技能実習修了者でも、一度帰国して認定申請で呼び寄せるなら発生する
費用の水準そのものより、どの契約に何を書き込むかで後の手戻りが決まります。送出機関から契約書のドラフトが出てきた段階で、条項と金額の内訳を突き合わせておくと、申請の直前で慌てずに済みます。




