「書類作成はサービスでやっておきますね」 「全部コミコミで面倒見ますよ」
特定技能の現場で、こんな会話が当たり前のように交わされていませんか? 多くの受入れ企業様や登録支援機関様にとって、これは「親切なサービス」や「業界の慣習」として認識されているかもしれません。
しかし、あえて強い言葉でお伝えします。 その「親切」は、今や「違法行為」となる可能性が高いです。
2026年1月1日、行政書士法が改正されました。 これまで一部の事業者が「グレーゾーン」だと言い訳してきた抜け道は、この改正によって完全に封鎖されました。もはや「知らなかった」では済まされません。
まずは、今回決定的に変わった「法律の条文」をご覧ください。 国はこの短文を追加することで、これまでの曖昧な解釈を一切認めない姿勢を打ち出しました。
【根拠法令:2026年(令和8年)1月1日施行 改正行政書士法】
▼ 【重要】第19条(業務の制限)新旧対照
(改正前:旧条文) 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業としてはならない。
(改正後:現行条文) 行政書士又は行政書士法人でない者は、いかなる名目によるかを問わず業として報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業としてはならない。
▼ 第23条の三(両罰規定・新設)
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、当該各号に定める罰金刑を科する。 一 第十九条第一項(中略) 百万円以下の罰金刑
ご覧いただけましたでしょうか。 「いかなる名目によるかを問わず」。 この一文が追加されたことの意味は極めて重いです。
本記事では、外国人の在留資格申請を専門とする行政書士として、この法改正が皆様のビジネスにどのようなリスクをもたらすのか、そして事業を守るための正しい連携方法とは何かを解説します。
はじめに:なぜ今、申請業務の「丸投げ」が危険なのか
特定技能制度が始まって以来、現場では奇妙な慣習が一部で横行していました。 それは、「登録支援機関が、行政書士資格を持たずに、ビザ申請書類(在留諸申請書類)を作成・時には提出代行までしてしまう」という行為です。
受け入れ企業様のなかにはこう思われている事業者様もいるかもしれません。 「支援機関にお金を払っているんだから、全部やってくれるのが普通では?」 「書類作成なんて、支援の一環でしょう?」
いいえ、違います。 法律上、「支援(生活サポート)」と「申請(法的書類の作成)」は、明確に区別されています。 そして今回の法改正により、これまで黙認されていたような曖昧な運用は、明確に処罰の対象となりました。
2026年改正行政書士法の衝撃—「抜け道」の封鎖
これまでの行政書士法(改正前)にも、無資格者が報酬を得て書類作成を行うことを禁じる規定はありました。しかし、悪質な業者はこのような言い訳で法の網を潜り抜けてきました。
「書類作成代としては1円も頂いていません。頂いたお金はあくまで『コンサルティング料』や『事務手数料』、あるいは『翻訳料』や『システム利用料』です」
つまり、名目を変えることで、実質的な報酬を得ていたのです。
第19条改正の核心:「いかなる名目によるかを問わず」
このイタチごっこに終止符を打つため、国は法律の条文そのものを書き換えました。 冒頭の新旧対照表で強調した通り、改正法には「いかなる名目によるかを問わず」という強力な一文が追加されています。
これにより、以下のような「言い逃れ」は一切通用しなくなりました。
- ❌ 「これは着手金ではなく、入会金です」 → 実態として書類作成が付随していれば違法です。
- ❌ 「書類作成は無料サービスです(支援費に含まれています)」 → 支援費等の名目で、書類作成の労務対価を回収しているとみなされれば違法です。
- ❌ 「書き方を教えるコンサル料です」 → PC入力を代行したり、完成品を渡したりしていれば、それは作成行為であり違法です。
名目が何であれ、「無資格者が書類を作り、何らかの形で金銭を受け取っていればアウト」という明確な基準が確立されたのです。
登録支援機関にとっての「死活問題」
ここからは、登録支援機関の経営者様、実務担当者様に申し上げます。 「まあ、バレないだろう」と安易に考えていませんか?
今回の改正では、違反時のペナルティが強化されています。もし御社が行政書士法違反で摘発された場合、待っているのは最悪「事業の強制終了」です。
リスク1:登録支援機関の登録取消し(5年間支援業務ができない)
入管法上のルールを確認しましょう。登録支援機関には「欠格事由(登録拒否事由)」があります。
行政書士法違反で警察の捜査が入るということは、同時に入管法上の「不法就労助長罪」や「虚偽申請」の疑いもかけられることを意味します。これらで処罰されれば明確な登録取消事由となります。
また、仮に行政書士法違反の罰金刑だけで済んだとしても、法令遵守の欠如を理由に「支援業務を適正に実施する能力がない」と判断され、登録の取消しや更新不許可となる可能性が高いです。 結果として、5年間は業界から追放されることになり、実質的な廃業リスクに直結します。
リスク2:両罰規定による法人処罰
「担当者が勝手にやったことだ」というトカゲの尻尾切りは通用しません。
今回の改正で整備された「第23条の三(両罰規定)」では、従業員が違反行為を行った場合、「その法人(会社)に対しても罰金刑を科する」と明確に定められました。 つまり、現場の担当者が罰せらると、会社も同時に処罰を受けることになります。組織ぐるみの違法行為として、より厳しく扱われるのです。
受入れ企業(特定技能所属機関)が負うリスク
「うちは支援機関に任せているから関係ない」と思っている受入れ企業の皆様。 実は、皆様も無関係ではありません。
不法就労助長罪の共犯リスク
違法なブローカー(無資格業者)を使ってビザ申請を行っていることを知りながら依頼を継続していた場合、最悪のケースでは共犯とみなされる可能性があります。
また、無資格者が作成した書類は、専門知識の欠如から虚偽の内容が含まれているケースが散見されます。もし虚偽申請が発覚すれば、受入れ機関としての認定が取り消され、当分の間、外国人を雇用できなくなります。 「安さ」や「丸投げの手軽さ」を求めた結果、人材確保のパイプラインそのものを失うことになるのです。
何が「違法」で、何が「適法」なのか?
ここで、現場でよくあるケースを具体的にジャッジしてみましょう。
【CASE 1】定額パックでの請求
- 状況: 登録支援機関A社は、受入れ企業に対し「初期費用20万円」を請求。この中に、人材紹介、事前ガイダンス、そして「在留資格認定証明書交付申請書の作成」が含まれている。
- 判定: ❌ 違法(行政書士法第19条違反)
- 理由: 「初期費用」という名目の中に、書類作成の報酬が混在しています。「いかなる名目によるかを問わず」の規定によりアウトです。
【CASE 2】本人申請という名の代行
- 状況: 登録支援機関B社のスタッフが、申請書をPCですべて入力・作成。データを印刷し、外国人本人に渡して「これを入管の窓口に出してきて」と指示した。会社には「支援委託費」を請求している。
- 判定: 🔴 違法(行政書士法第19条違反)
- 理由: 「提出」だけを本人にさせていますが、「作成」を行っているのはB社です。支援委託費の一部が作成対価とみなされます。
【CASE 3】適正な分業(ホワイトな運用)
- 状況: 登録支援機関C社は、支援計画の策定や事前ガイダンスを実施し、「支援委託費」を請求。ビザ申請については、提携している行政書士D事務所を紹介。企業は行政書士Dと直接契約を結び、「報酬」を行政書士の口座に振り込んだ。
- 判定: 🟢 適法
- 理由: 業務と報酬が明確に分離されており、書類作成は有資格者である行政書士が行っています。
6. 今すぐ見直すべき「適正化」のアクションプラン
2026年の改正法施行後、コンプライアンス意識の高い大手企業を中心に、「法令遵守していない支援機関との契約解除」の動きが始まっています。 生き残るためには、直ちに以下の体制構築が必要です。
- 業務範囲の明確な切り分け(セパレート) 登録支援機関が行うべきは「法定の支援業務」です。具体的には、生活オリエンテーション、公的手続きの同行、定期面談などです。 一方で、入管に提出する「認定申請書」「変更申請書」等の作成は、行政書士の独占業務です。この境界線を社内で徹底してください。
- 契約と請求の分離 「面倒だから請求書は一本化してほしい」と企業に言われても、断ってください。
- 支援業務・紹介料 ⇒ 登録支援機関からの請求
- ビザ申請報酬 ⇒ 行政書士からの直接請求 お金の流れを分けることが、自分たちの身を守る最大の防御壁になります。
- 「提携行政書士」との正しいパートナーシップ 自社で抱え込めない業務は、プロである行政書士に任せてください。 ただし、「紹介料(キックバック)」の授受は絶対にNGです。これは行政書士側も処分対象となります。 信頼できる行政書士と連携し、「コンプライアンス重視の支援機関」としてブランディングすることが、結果として企業の信頼を勝ち取り、長く選ばれる理由になります。
さいごに:行政書士の「役割」とは
2026年の改正法では、行政書士の使命として「国民の権利利益の実現に資すること」が明記されました。 また、デジタル社会への対応も職責として義務付けられました。
行政書士は、書類を作って終わりではありません。 法改正や審査傾向の変化を常にキャッチアップし、トラブルの芽を未然に摘み取る『在留資格マネジメントのプロフェッショナル』です。
「丸投げ」は、一見楽に見えるかもしれません。しかし、そこには法的保護がありません。 何かトラブルがあったとき(不許可になったとき、不法就労を疑われたとき)、無資格の業者は責任を取れませんし、法的に代理人として入管と交渉することもできません(不法行為となるため)。
「適正な業務には、適正な専門家を。」
御社のビジネスを法的リスクから守り、外国人材が安心して働ける環境を作るために。 特定技能の申請手続きは、行政書士にお任せください。
当事務所では、登録支援機関様との適法な連携スキームのご相談、ならびに受入れ企業様からの直接のご依頼を承っております。2026年改正法への対応に不安がある方は、まずは一度ご相談ください。
【免責事項】 本記事は2026年1月時点の法令に基づき作成されています。個別の事案に対する法的判断についてはご相談ください。

