【2026年3月9日〜】「派遣会社にお任せ」が通用しない時代へ|技人国の派遣形態 新ルールと派遣先企業の責任
技人国(技術・人文知識・国際業務)の外国人を派遣で受け入れている企業にとって、2026年3月9日以降、これまでの運用前提が大きく変化します。「派遣会社が手続きを進めているから、自社は受け入れるだけで良い」という理解でいた場合、今回の入管庁通達によりその考え方を改める必要があります。
入管庁が令和8年2月に出した通達「在留資格『技術・人文知識・国際業務』をもって派遣形態で就労する場合の取扱いについて」は、派遣形態の技人国に対する手続きそのものを組み替える内容です。最も大きな変更は、派遣先企業が自社の機関名と責任者名で誓約書を入管に提出し、入管調査の対象となり、不法就労助長罪のリスクを直接負う立場になった点です。
この記事では、派遣形態の技人国に何が起きているのか、派遣先企業が今後どこに気を配る必要があるのか、派遣会社の運用フローはどう変わるのか、そして自社の派遣受入を点検するときに何を見ればよいかを整理したいと思います。
この記事でわかること
- 派遣形態の運用変更が打ち出された背景(実態が見えないという長年の課題)
- 派遣ビジネスへの最大の影響——派遣先確定が申請の前提になったこと
- 派遣先企業のリスク構造(誓約書・実地調査・刑事責任)
- 派遣先企業を待つ刑事責任の可能性(2026年6月14日からの厳罰化)
- 自社の派遣受入を点検する典型パターン
- 派遣会社・派遣先企業が今すぐ取るべきアクション
なぜ今、派遣の運用が変わるのか
技人国はもともと、専門性のある業務に従事する外国人のための在留資格です。派遣形態としても広く利用される中で、名目上は「翻訳」「マーケティング」「エンジニア」として技人国を取得しながら、実際の派遣先では工場のライン作業や店舗のオペレーションといった、本来は技人国に該当しない業務に従事しているケースが、長年にわたり問題視されてきました。
派遣形態の難しさは、入管が直接接しているのが派遣元(派遣会社)だけで、実際に外国人が働いている派遣先での業務実態が把握しづらい点にあります。派遣会社は申請書には「翻訳業務」と書く。しかし派遣先の現場では別の業務が中心になっている。この「実態の見えなさ」が、政府の問題意識の起点です。
2026年1月の総合的対応策では、技人国について「派遣による就労の具体的活動内容の実態が十分に把握できていない」という現状認識が明記され、「派遣先における活動状況を調査し、審査の厳格な運用等を行う」という方針が示されました。3月9日からの新ルールは、この方針を実務手続きに落とし込むためのもので、派遣会社経由では届かなかった派遣先の現場まで、入管が直接調査の手を伸ばす構造に作り変えられました。
最大の変更点:「派遣先が決まる前に申請する」運用ができなくなった
派遣業界には、外国人を先に採用してから派遣先を探すという運用が一定数ありました。在留資格認定証明書の交付を受けてから派遣先を確定する、あるいは在留資格変更を申請してから派遣先を探す、というスケジュール感です。営業活動と並行して人材を先に確保しておく必要から定着していた業界慣行です。
新ルールではこの運用ができなくなります。通達では「申請時点において派遣先が確定していない場合は、在留諸申請の許可等を受けることができません」と書かれており、認定・変更・更新のいずれの申請でも、申請日に派遣先が決まっていることが大前提になります。
この変更が派遣ビジネスに与える影響は大きなものとなりそうです。「派遣先確保→契約締結→申請→許可→派遣開始」という順序を踏む必要があるため、許可までの数か月、派遣先を確定させたまま待たせる形になります。派遣先からすれば「いつ来るか分からない人材のために枠を空けておく」のは現実的でないことも多く、派遣会社の営業フローと採用フローの組み替えを迫られます。
加えて、派遣契約期間と在留期間が連動するルールも新たに加わりました。通達は「派遣形態で就労する場合は、派遣契約期間に応じた在留期間が決定されます」と記載しており、3〜6ヶ月の短期派遣契約を更新で重ねていくモデルでは、付与される在留期間も短期化していく可能性があります。在留期間が1年で繰り返し更新申請が必要になれば、申請コストと外国人本人の雇用の不安定さ、両方が積み重なることになります。
派遣ビジネスの基本構造(短期で動かす、派遣先を都度マッチング)と、新ルールが想定する受入像(派遣先確定・長期契約・実態把握)には乖離があります。この距離をどう埋めるかが、今後外国人派遣会社の重要なテーマとなりそうです。
派遣先企業のリスク:「派遣会社にお任せ」が通用しない構造
派遣先企業にとっての変化は、提出書類が増えるという業務レベルの話ではありません。立場そのものが「派遣会社の業務を補助的に支える側」から「自社で責任を負う当事者」に変わります。
これまで、派遣社員の在留資格に関する手続きは派遣元(派遣会社)の責任という形で運用されてきました。派遣先企業の人事担当者の感覚としても、「派遣会社さんが申請してくれているから、自社は受け入れるだけ」というのが一般的だったはずです。
新ルールでは、派遣先企業も自社の機関名と責任者名で誓約書を入管に提出します。誓約内容のうち最も重い意味を持つのは、「在留資格の活動範囲を理解した上で、申請人を当該活動に従事させる」という項目です。「派遣会社が連れてきた人材だから派遣会社の責任」という位置に逃げられない構造で、派遣先で実際に何の業務をさせるかについて、派遣先企業が入管に対して直接約束する形になります。
実地調査も、派遣会社だけを対象にした旧運用から、派遣先まで広がる新運用に変わります。通達は「在留審査の際には、派遣会社(派遣元)のほか、派遣先に対しても申請人の業務内容や活動状況について直接確認を行う場合があります」と明記しています。実地調査では派遣先の担当者面談に加えて、外国人本人への面談も行われ、本人の回答と派遣先担当者の説明に食い違いがあれば、実態とのズレが疑われます。
つまり、派遣先企業として今後求められるのは「派遣社員が現場で何の業務をしているか」を自社で把握し、説明できる体制です。受入部署の感覚だけに頼らず、人事・コンプライアンス部門と業務記録レベルで情報を共有しておく仕組みが必要になります。

派遣先企業に降りかかる刑事責任——不法就労助長罪と6月の厳罰化
派遣先企業として最も気をつけるべきなのは、不法就労助長罪のリスクが派遣先まで及ぶ点です。
入管法73条の2では、外国人に不法就労をさせた者・あっせんした者に対する罰則が定められています。現行は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科可)。2024年に公布された改正入管法により、2026年6月14日施行予定の新ルールで、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金に引き上げられます。
この罰則で重要なのは、入管法73条の2第2項に「過失(注意義務違反)があれば処罰の対象になる」と定められている点です。「派遣会社からの紹介だから大丈夫だと思った」という説明は、注意義務違反として処罰の根拠になり得ます。新ルールで派遣先用の誓約書まで入管に提出した以上、「自社で実態を確認していなかった」という言い訳の余地は、これまで以上に小さくなります。
派遣された外国人を技人国の名目で受け入れながら、実際には肉まん工場の単純労働に従事させていた事案で、派遣先企業の管理担当者が逮捕された報道があります。派遣先で実際に何をさせていたかが問われ、派遣先の管理職個人に責任が及んだ事例として、業界では知られたケースです。「派遣会社が連れてきた人材を現場に配置しただけ」というスタンスでは、派遣先企業の管理職が個人として刑事責任を問われ得るということです。
派遣先企業として避けたいのは、刑事責任に加えて「企業名の公表」「今後の外国人受け入れ制限」「採用ブランドへのダメージ」といった副次的な影響です。技人国に限らず外国人雇用全般に影響するため、派遣社員の業務実態を把握しておく価値は、これまで以上に大きくなっています。
技人国全般での「名目と実態のズレ」に対する入管側の動きは、技人国ビザの審査厳格化|「名目と実態の乖離」で不許可になる事例と企業の対応策で整理しています。
派遣会社(派遣元)の現場で組み替える運用
派遣会社にとっても、申請フロー全体の組み替えが必要です。「派遣先確定の必須化」と「在留期間の連動」は前章で扱ったので、ここでは残りの実務ポイントをまとめます。
派遣先が変わるたびに発生する継続義務
派遣元用の誓約書には4つの項目があり、その末尾は「派遣先に変更があった場合には、その都度同様の対応を行うこと」と書かれています。「同様の対応」とは、申請人本人と新しい派遣先に対して、技人国の活動範囲と申請書上の活動内容詳細を改めて説明・理解させることです。
つまり、派遣元の責任は「申請時に1回」では終わりません。派遣社員のローテーションを前提にしているビジネスモデルは、派遣先変更のたびに発生するこの継続義務を運用に組み込めるかどうかが、ビジネスの継続可能性を左右します。
提出書類が増える(特に更新時)
提出書類は申請の種類で構成が分かれます。

更新時に追加される3書類(派遣元管理台帳・派遣先管理台帳・就業状況報告書)は、労働者派遣法上もともと作成・保管が義務付けられているものです。新たに作るわけではありませんが、入管に提出できる状態に整えておく運用が新たに必要になります。
既存社員にも次の更新時から適用
新ルールは「2026年3月9日(月)申請分から」適用されるため、既存の派遣社員であっても、3月9日以降に行う在留期間更新申請から新しい提出書類が必要になります。猶予期間はないため、更新時期が近い社員から順に書類準備を進めるのが現実的です。
自社の派遣受入を点検する5つの典型パターン
派遣先企業として「うちは大丈夫だろうか」を点検する際、入管が問題視しやすい典型的なズレのパターンを知っておくと、自社の状況を客観視しやすくなります。

ここで分かれ道となるのは、専門業務と単純業務の 業務時間の比率 です。一時的・付随的に単純業務を手伝うこと自体は許容されており、繁忙期にフロント担当が荷物運搬を手伝う程度の話は問題視されません。問題は、専門業務の時間が著しく低下し、単純労働が常態化している場合です。
業務時間の配分を判断する具体的な基準は公表されていませんが、業務日報や勤務記録から「専門業務に何時間、単純業務に何時間」と説明できる状態を整えておくのが、現実的な備えになります。
よくある誤解と、本当のところ
派遣先企業の人事担当者と話していると、似たような誤解を耳にすることがあります。新ルールに関連する典型的な誤解と、実際の整理を並べておきます。
誤解:派遣会社が手続きしているから派遣先は無関係 新ルールでは派遣先企業も誓約書を提出し、入管調査の対象になります。派遣会社経由という事実だけでは責任を回避できません。むしろ派遣先用誓約書を入管に出している分、自社で実態を確認していなかった場合の説明が苦しくなります。
誤解:契約書通りの業務をさせていれば実態は問われない 入管が見るのは契約書ではなく実態です。本人面談と業務記録から、実際に何の業務に時間を使っているかを確認します。
誤解:3月9日以降の新規申請だけが対象 既存の派遣社員であっても、3月9日以降に行う在留期間更新申請から新ルールが適用されます。猶予期間はありません。
誤解:少人数の派遣なら入管調査は来ない 活動実態に疑義がある案件が調査対象になります。人数の多寡ではなく、業務内容と申請内容のズレが疑われるかが基準です。
誤解:派遣社員にちょっと現場を手伝ってもらうのは問題ない 一時的な補助は許容されますが、それが業務時間の大半を占めると技人国の枠から外れます。日報で時間配分を見える化しておかないと、結果的に主たる活動になっていたと判断される余地が残ります。
派遣元・派遣先がいま着手できること
新ルールへの対応は、申請のタイミングを待たずに今から動けます。立場別に整理します。
派遣会社(派遣元)の動き方
- 受入中の派遣社員について、派遣先での実際の業務内容を業務日報や派遣先からのヒアリングで再確認する
- 派遣契約書・労働者派遣個別契約書の業務記載と、実態の業務にズレがあれば派遣先と協議して契約を見直す
- 派遣元管理台帳を、業務内容・派遣先・期間が後で説明できる形で保管する
- 「派遣先変更時は誓約書の項目4対応が発生する」を社内のオペレーションフローに組み込む
- 派遣先企業に新ルールを早めに周知し、誓約書への署名依頼が発生する旨を共有しておく
派遣先企業の動き方
- 受入中の技人国派遣社員の業務実態を確認し、契約書上の業務と実際の業務にズレがあれば派遣会社と協議する
- 業務時間の配分を見える化する(業務日報の整備)
- 単純労働が業務時間の大半を占めている派遣社員がいる場合は、業務内容の見直しか在留資格の変更(特定技能等)を検討する
- 派遣先管理台帳・就業状況報告書を、派遣会社からの提出依頼に応じて出せる状態にしておく
- 受入部署と人事・コンプライアンス部門で情報共有の体制を整える
業務内容と実態にズレがある場合、そのまま更新申請を行うと不許可リスクが高まります。実務的な選択肢は、専門業務の比率を高めて技人国の枠内に収めるか、特定技能などの実態に合った在留資格への変更を検討するか、のどちらかになります。
当事務所でも技術・人文知識・国際業務ビザの申請サポートを行っており、派遣形態での申請準備、誓約書作成、派遣契約書のレビュー、必要に応じた在留資格変更の検討まで、個別の状況に合わせてサポートいたします。
よくある質問
Q. 既存の派遣社員にも新ルールは適用されますか?
3月9日以降に行う申請から適用されます。既存の派遣社員の場合、次の在留期間更新申請のタイミングで新しい提出書類が必要になります。猶予期間はないため、更新時期が近い社員から順に書類準備を進めるのが現実的です。
Q. 派遣先が複数ある社員の場合、誓約書はどうなりますか?
派遣先企業ごとに誓約書が必要になります。複数の派遣先に同時に派遣する運用の場合、各派遣先の機関名と責任者名で個別に誓約書を取得することになります。派遣先のローテーションがある運用では、その都度の対応負荷が想定以上に重くなる場合があります。
Q. 派遣先用誓約書の署名は、派遣先のどの立場の人がすればよいですか?
参考様式では「派遣先機関名」と「派遣先責任者氏名」が記載項目になっています。派遣先企業の代表者または人事責任者など、対外的に責任を負う立場の方の署名が想定されます。事前に派遣先と署名フローを確認しておくのが安全です。
Q. 派遣社員にしばらくの間、業務見習いとして現場を経験させたい場合は?
新規採用直後のキャリアステップとして現場の実務研修を行うこと自体は、入管庁の運用上も認められています。ただし、研修期間が在留期間の大半を占めるような設定や、実態として研修名目の単純労働になっている場合は技人国の活動とは認められません。研修期間の長さと内容について、事前に説明できる資料を整えておくことが大切です。
Q. 入管職員の派遣先訪問は事前に予告されますか?
事前連絡がある場合と、予告なく訪問される場合の両方があります。派遣先用誓約書では実地調査への協力が誓約事項として求められているため、雇用契約書・出勤簿・業務日報・派遣先管理台帳などを常に提示できる状態に整えておくのが安心です。
まとめ
2026年3月9日からの派遣形態の技人国の運用変更は、派遣ビジネスの前提と派遣先企業の立場の両方を組み替える内容です。要点を整理します。
- 政府が「派遣形態の実態が見えにくい」という長年の課題に対策を打った変更
- 「派遣先が決まる前に申請する」業界慣行が崩れ、派遣ビジネスの営業・採用フローの組み替えが必要
- 派遣先企業も自社の機関名と責任者名で誓約書を提出し、入管調査の対象になる
- 派遣先企業に不法就労助長罪のリスクが直接降りかかり、6月14日からは「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金」へ厳罰化
- 既存派遣社員にも次の更新時から適用され、契約書と実態の整合性確認は今から動ける
派遣先企業として最も避けたいのは、「派遣会社にお任せだったから知りませんでした」が通用しなくなった世界で、自社の管理職が個人として刑事責任を問われる事態です。社員一人ひとりの業務時間配分を業務日報レベルで見える化しておくことが、調査対応・更新申請の局面で自社を守る最も確実な備えになります。



